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 お刺身にするのに、私はまだ生きているホタテさんの口の中にヘラを入れていきます。身に触れた瞬間ホタテさんは勢いよく口を閉じました。異物が入ってきたのだから侵入を阻止しようと口を閉じる。当たり前のことです。
 でも私はビックリしてホタテさんを取り落としてしまいました。言葉を持たないホタテさんだって、思わず言葉を失うほど驚いたでしょう。ついつい昨日まではうっすらと陽の光が届く海底でお昼寝をしたり、勢いよく水を噴出して後ろ向きに泳いだりと悠々自適、悠々閑々な生活を送っていたのでしょう――もちろんホタテさんにはホタテさんなりの苦労があったのでしょう。この不況下ではお仕事だってままならないし、お嫁さんだってなかなかもらえないだろうし。
 それが突然、何の予兆もなくホタテさんは網に巻き取られ、同じ境遇の仲間たちと共に乱暴に箱詰めされて我が家にお歳暮としてやってきたのです。ほとんどの仲間たちは狭い狭いジップロックに詰められ、反抗する暇もなく冷凍室に放り込まれ生きながらにして凍らせられるという、人語に尽きぬ悪逆非道な行為。それをかろうじて逃れたと思ったらこの仕打ちです。私はホタテさんに謝ります。「ごめんね、ホタテさん。ちょっとビックリしてしまったのです。」
そういうと私は、今度はしっかりと心に決めるとワシワシとヘラを入れてゆき、ホタテさんの貝柱をそぎ剥がしたのです。ぱかん、という効果音が思わず聞こえてきそうなほど小気味よくホタテさんの口が開きました。
 説明書によると次はホタテさんの内臓を引き剥がさなければならないのです。私はおっかなびっくりホタテさんのちょうつがいの部分にある黒い内臓の部分をつまみました。びくんびくん、とホタテさんが身じろぐのが指に伝わってきます。それはそうです。誰だって生きたまま内臓を人差し指と親指で摘まれたたら身じろぎくらいしてもいいものです。でも、おいしいお刺身のためです。私は心の中で「ナムナム」と念仏を唱えながらニリニリと内臓を剥がしていきました。
「ごめんねホタテさん。無駄なくおいしく命を頂きます。ナムナム。」



 ふとさっき気づいたのですが、どうでもいい人間に対しては本当に興味が沸かないものですね。今まではそういう人とは自分から付き合いを持つことがなったので気がつきませんでした。
 後、午睡の夢で出会った(付き合っていた?)あの子はいったい誰だったんだろう?ぽかぽかと温かく、心まで温くしてくれたあの子。きっと陽だまりの娘だったんだ。
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結局のところ、僕の語る言葉は誰かの借り物でしか無く、借り物の言葉で書いた物語は本当の物語ではない。
それでも、僕は書きたい。書かなければならない。
巧く書くことなど誰も求めていない。
僕がやるべきことはただ一つ。語るべきことを語ることだ。
そうすれば、借り物の言葉は僕の言葉となり、物語は、少なくとも、鼓動を始め全身に血が巡るだろう。



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